糖尿病と足病変
当院のフットケアチームの取り組み
糖尿病治療の目標は、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」であり、そのためには、糖尿病の合併症をしっかりと予防しなくてはなりません。
当院では、導尿病療法指導士、フットケア指導士、シューフィッターの資格をもつ看護師さんと一緒にフットケアに注力しています。「最後まで自分の足で歩き続ける」ためには、糖尿病によって起こりえる足病変を予防し、早期発見し、早期介入につなげていくかが大切です。また、フットケアの世界は、内科、整形外科、形成外科、皮膚科、外科、麻酔科、放射線科など幅広い分野に及ぶため、広い見識が必要で、初診医の力量が試されます。私も糖尿病病足病変で足を切断することのない世界の門番役として頑張りたいと思っていますし、その実践のために当院は存在するという気持ちでフットケアに取り組んでいます。
糖尿病足病変の原因
糖尿病足病変は、糖尿病の治療経過が一定以上になると発症してくる合併症のひとつです。糖尿病によって足の神経損傷 (神経障害) と循環不良 (血管疾患) が、同時に起きてくることから、放置すると足の切断など深刻な状態に至る可能性があります。
糖尿病足病変の原因とリスクについて以下に記します。
1.神経障害
血糖値が高い状態が続くと足の感覚神経、運動神経が障害され、それは次第に進行します。神経障害は最初はビリビリとした足のしびれや痛みで始まります。それが進行すると次第に足の感覚低下を起こすようになります。最終的には足の感覚(触っている感じ、痛み、温度などの感覚)が消失します。そうなると足のキズや潰瘍などに気づきにくくなってしまいます。気がついたら、靴下が血まみれになっていた・・・といった状況も時々あります。
2.血管疾患
糖尿病では、どちらかというと動脈硬化が起きやすくなっています。特に足を栄養する血管が障害されることから組織への血流・酸素が減ってしまい、足のキズが治りにくいです。
3.不十分なフットケア
糖尿病の患者さんは病歴が長くなると、糖尿病以外に高血圧、脂質異常、肥満など身体的に様々な健康上のトラブルを抱えています。そうなると足の爪や足指の間に水虫(白癬菌感染)があったり、足裏に大きなタコ(胼胝)があったりしても十分な注意を払えなくなっていることがあります。特に感覚障害によって痛みがないと更に悪化します。適切なフットチェック、フットケアが行われていないと足の壊疽・切断に至る場合があります。
糖尿病足病変の予防
糖尿病足病変を予防するには、定期的なフットチェックが必要です。当院では糖尿病足病変のリスクがある患者さんに、年1回以上のチェックを行っています。
足の胼胝・鶏眼の有無、爪や足指の変形、水虫の有無、足の関節の動きの確認、タッチテスト、音叉での振動覚検査、アキレス腱反射など神経機能の評価、足の血流の評価などフットチェックを行って足病の予防を行っています。
また普段から快適な靴を履き、足を清潔な状態に保ち、裸足を避けきちんと靴下をしっかり履くことを推奨しています。特に足を傷つけないために適切な靴を選ぶことはとても重要です。
私たちは荒れた地面や、汚れから足を守るために靴を選びますが、大きさの合わない靴は足を傷つけることが多いです。特に大きすぎる長靴、あるいは安全靴の着用で傷つけてしまうことは意外と多いものです。また、汚れた靴をそのままにしている人では足の裏がヒビ割れていたり、胼胝から出血していたり、爪が厚くなって伸び放題になっていることもしばしばです。
その他に予防で大事なのは火傷です。糖尿病患者さんでは、時に足の感覚がなくなってしまうことがあります。そうなると足に熱湯がかかっても、足をストーブで焼いてしまっても、気づかないことがあります。(どちらも本当にある話です!) もしも、糖尿病患者さんが、いったん火傷になってしまうと足を切断する可能性は高確率です。血糖管理が悪いと神経障害を起こしやすくなるため、火傷には本当に注意しなくてはなりません。
糖尿病足病変の診断と治療
糖尿病の人が足にキズを負った場合は、できるだけ早く医師の診察を受ける必要があります。 足の皮膚の状態、感染の有無、神経障害の程度、血流障害の程度を正しく評価し、足の傷の洗浄とドレッシング、感染症を治療するための抗生物質の服用、患部への圧力を軽減するための専用の靴または装具などを使用する必要があります。
血流障害がある場合はカテーテル治療や手術などで血行再建術を行う必要があります。また足の傷が重症の場合は感染や壊死した部分を切除する必要があります。いずれにしても、できるだけ早く治療を開始することが重要です。糖尿病足病変を放置し、治療開始が遅れると足の切断だけでなく命を失ってしまう可能性があることを知っておいていただきたいと思います。