高尿酸血症と痛風
尿酸と高尿酸血症とは
私たちの体の中では、毎日新しい細胞が作られ続けています。
これらの細胞は一定期間機能し、その役目を終えると分解されます。
「尿酸(にょうさん)」とは、細胞が分解される過程で、細胞内にある核酸(※)が分解されて作られる物質です。
人の体内では一日に500~1000mgの尿酸が産生されます。
血液中の尿酸濃度が高い状態(尿酸値:7mg/dl以上)を高尿酸血症といいますが、その状態は人の体にとって望ましくはありません。
通常、尿酸は腎臓から尿とともに排出されますが、尿酸の尿排泄が低下したり、過剰に作られることで、高尿酸血症になります。
血液中の尿酸値が8mg/dl以上で、なおかつ腎障害・高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロームなどいろいろな病気を合併している場合には、薬物療法が推奨されます。
※核酸(かくさん)はDNAやRNAの総称で、遺伝情報の保存と伝達に関わる分子です。
タンパク質合成のための設計図として機能します。
高尿酸血症によっておこる病気
高尿酸血症を放置すると尿酸の結晶が足先の関節内に沈着し、痛風発作を起こします。
また、尿中の尿酸値が高いと尿路結石、腎結石の原因となります。
腎臓にも沈着することがありこの場合は痛風腎として腎不全の原因となります。
また、高濃度の尿酸は、炎症や血管の障害を引き起こし、動脈硬化のリスクとなります。
その結果として、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患を引き起こすことがあります。以下で説明します。
痛風
日本内科学会雑誌より
上図:関節液中の尿酸-ナトリウム結晶を偏光顕微鏡で見たものです。針の様な形状をしているので誤解されますが、「これが刺さるから関節炎を起こす」という訳ではありません。
尿酸は血液に溶けにくい物質です。血中尿酸値が7.0mg/dl以上の状態が長期間続くと、溶けきれなかった尿酸は尿酸ナトリウム結晶として析出(液体から固体になること)して関節軟骨などに沈着します。
この結晶は長い針状の構造を有しています。
これが一定以上に蓄積すると、一部が関節内に剥がれ落ちると、関節内の免疫細胞が過剰反応を起こして急激な関節炎を引き起こします。
これが痛風です。初めての痛風関節炎は、約70%のケースで足の親指の付け根に発生します。
また、アキレス腱にも尿酸結晶が沈着して炎症を起こすことがあります。
痛風発作は夜間から早朝にかけて発症し、季節的には春と夏にピークを迎えます。
通常、痛みは数日から1週間程度で治まりますが、放置していると再発を繰り返し、最終的に痛風結節となり、関節が腫れて変形します。
痛風発作の最中であっても、意外なことに尿酸値が高くないこともあります。
痛風の症状と尿酸値は必ずしも相関しないことがあるのです。
痛風発作時:足部に強い腫れ・赤味・痛みを伴う(尿酸値 9.1mg/dl)
1週間後:腫れ・赤味・痛みは消失した
尿路結石
高尿酸血症では尿路結石ができやすくなります。
尿路結石は尿の通り道(腎臓、尿管、膀胱、尿道など)に結石ができる病気です。
結石が尿管の狭い部分を通過する際に激しい痛みを起こすことがあります。
時に、尿の排泄路が詰まってしまい腎障害をきたすこともあります。
このときの結石はシュウ酸カルシウム結石が多いとされています。(高尿酸血症だからといって尿酸結石になるとは限りません)
腎障害
腎臓は、血液から老廃物をろ過し、尿を生成・排泄する重要な臓器です。
しかし、高尿酸血症は腎臓にさまざまな悪影響を及ぼします。
腎臓の血管への影響(腎動脈・微小血管)
尿酸による血管内皮の損傷により、動脈硬化や微小血管障害が引き起こされます。
この結果、腎臓への血流が不足し、腎機能が全体的に低下します。
濾過システム(糸球体)
尿酸結晶が糸球体(※)に沈着し、損傷を与えることで糸球体の機能が低下し、腎機能が低下します。
※糸球体(しきゅうたい)は腎臓にあるフィルターで、血液中の老廃物を濾過します。
尿生成と排出系(尿細管、集合管、尿路)
尿細管は糸球体で濾過された液体をさらに処理して尿を生成します。
高尿酸血症があると、尿酸結晶が尿細管内で結晶化し、尿細管の閉塞や炎症を引き起こす可能性があります。
さらに、尿酸が集合管や尿管で結晶化して詰まると、尿の流れが阻害されて腎臓内圧が上昇し、腎障害が進行します。
高尿酸血症の原因
高尿酸血症の原因は、尿酸の産生過剰と腎臓からの排泄低下もしくは、その両方があります。
尿酸の産生過剰
アルコールや魚卵などプリン体を多く含む食品の過剰摂取は尿酸の産生過剰につながり、高尿酸血症の原因となります。
尿酸の排泄力低下
尿酸は主に腎臓から尿中に排泄されるため、腎臓の機能が低下すると血清尿酸値は高くなる傾向があります。
また利尿薬を内服していると尿酸の排泄が低下し、尿酸値が上昇しやすくなります。
激しい運動、強度の筋肉トレーニング、サウナなど
激しい運動(無酸素運動)を行うと、尿細管での乳酸と尿酸の交換、筋肉でのエネルギー産生に伴う尿酸生成の亢進が起こり、「運動性高尿酸血症」を発症することがあります。
高尿酸血症の分類
高尿酸血症は2018年のガイドライン改定により、「尿酸排泄低下型」、「混合型」、「腎負荷型(尿酸産生過剰型と腎外排泄低下型を含む)」の3つに分類されることになりました。
その割合は、尿酸排泄低下型が約60%、混合型が約30%、腎負荷型が約10%とされています。
腎負荷型の一部である「腎外排泄低下型」は、新しい概念であり、消化管からの尿酸排泄障害に基づいています。
遺伝要因が関係していることから、若い人や痩せた人で見られる高尿酸血症と深い関係があります。
これらの分類は治療薬の選択に関係するので注意が必要です。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版より」
尿酸排泄低下型と腎負荷型は、一般には受診時に尿中尿酸(尿UA)と尿中クレアチニン(尿Cr)を測定して下記のように判断します。
判定 | (尿UA)/(尿中Cr) |
---|---|
尿酸排泄低下型 | 0.5未満 |
腎負荷型(尿酸産生過剰 + 腎外排泄低下型) | 0.5以上 |
高尿酸血症の治療
高尿酸血症の治療の目標は、痛風や尿路結石といった発作の予防、腎障害、動脈硬化などの合併症の予防です。
尿酸値を適正に保ち続けることで合併症を予防できます。
治療方針については以下の「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」が参考になります。
「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版より」
食事療法
高尿酸血症の管理には、アルコールの過剰摂取の抑制と体重管理が重要です。
アルコールは、体内で代謝される際に尿酸の生成を促し、さらに腎臓からの尿酸排泄を妨げる作用があります。
肥満も尿酸値を上昇させる要因です。
肥満があると内臓脂肪が増え、尿酸代謝に悪影響を及ぼします。
肥満と尿酸値には相関があり、減量を行うことで尿酸値の改善が期待できます。
そのため、高尿酸血症の改善には「総カロリー制限」を意識し、適切なカロリー摂取で体重をコントロールすることが推奨されています。
高尿酸血症や痛風の治療では、「プリン体」のことがよく言われますが、最近では「プリン体制限」よりも「総カロリー制限」が重要視されています。
特に以下の食品は1食あたりのプリン体が多いため痛風発作を起こしたことのある人は注意してください。
- レバー(鶏>豚>牛の順にプリン体が多い、焼き鳥、焼肉では注意)
- カツオ、スルメイカ、イワシの干物など
これらの食品に注意し、食べ過ぎを抑えた食事を心がけることで、高尿酸血症の軽減が期待できます。
運動療法
激しい運動や瞬発力を要するスポーツでは血中尿酸値を急上昇させることがあります。
このため、高尿酸血症の治療においては、無理のない強度の運動が大切です。
運動療法ではウォーキンユリス(グ、軽いジョギング、サイクリングなどの有酸素運動が適しています。
運動中はしっかりと水分補給することが大切です。
汗をかきすぎて脱水を起こしたりすると、腎臓に大きな負担をかけることがあるので、注意しましょう。
薬物療法(痛風発作時)
痛風発作は、足の親指の関節軟骨に沈着した尿酸結晶の一部が剥がれ落ち、その影響で炎症が起こることが原因です。
痛風発作は、前兆期、発作極期、発作軽快期、寛解期に分けられます。
発作の前兆期には「コルヒチン」が有効です。
発作極期から発作軽快期には、消炎鎮痛剤(ナイキサン、ロキソニンなど)、ステロイド、コルヒチンなどを使用します。
ただし、発作が軽快するまでは尿酸低下薬を使用しないように注意が必要です。
尿酸低下薬は却って痛風発作を誘発する可能性があるためです。
再発予防にはコルヒチンが効果的で、痛風部位での白血球の活動を抑制し関節炎を予防する作用があるため、長期投与されることもあります。
「かかりつけ医のための高尿酸血症・痛風診療Q&Aより」
薬物療法(高尿酸血症、痛風寛解期以降)
尿酸排泄促進薬には、ユリノーム(ベンズブロマロン)、ユリス(ドチヌラド)、プロベネシドがあります。
また、高血圧治療薬のニューロタン(ロサルタン)にも尿酸低下作用があるため、高血圧と高尿酸血症を併発している患者さんに適しています。
尿酸生成抑制薬としては、ザイロリック(アロプリノール)、フェブリク(フェブキソスタット)、ウリアデック(トピロキソスタット)があります。
これらは高尿酸血症の病型分類で「腎負荷型」の患者さんに適応され、慢性腎臓病の進展を抑制する作用があるため、将来的に腎機能が低下するリスクがある患者さんにも有効です。
特にフェブリクとウリアデックは、すでに腎機能が低下した患者さんにも使いやすい薬です。
薬物療法開始後は、尿酸値を6mg/dl以下に維持することが求められます。
数ヶ月に一度は尿酸値、クレアチニン値、一般尿検査を行い、新たな合併症が発生していないことを確認します。
高尿酸血症の外来で気づいたこと
薬物療法での注意点
先に紹介した薬物以外で、尿酸値を下げる薬には、脂質異常、降圧剤、糖尿病治療薬などいろいろとあります。
逆に尿酸値を上昇させる薬もいくつかあります。
降圧剤や浮腫治療で用いられるサイアザイド系利尿薬、ループ利尿剤などは尿酸値を上昇させます。
また、サリチル酸(バファリン)も1000~2000mgでは尿酸値が上昇します。
こうした薬の長期服用では注意が必要です。他にも抗結核薬、免疫抑制薬の一部が高尿酸血症の原因になります。
若い患者さんでの注意点
高尿酸血症・痛風は30歳代といった比較的若い年代から見られます(稀ではありますが10歳代の患者さんもいらっしゃいます)。
30~40歳代といえば、体力に自信があり、仕事、食事、スポーツ、睡眠などで無理をしがちです。
特に精力的に活動している方ほど、高尿酸血症が発生しやすい傾向にあります。
運動後に大量の汗をかいた状態でアルコールを摂取したり、サウナで汗をかいて脱水状態になってからさらにアルコールを飲むことはよく見受けられる状況です。
高強度の運動による筋肉の酷使、発汗による脱水、アルコールの多量摂取は、高尿酸血症の方にとって悪影響を及ぼすパターンです。
例えば、「炎天下でのゴルフ→大量の発汗による脱水→ハーフタイムでのビールと焼肉→サウナでさらに発汗→風呂上がりのビール」といったシナリオはよくあることではないでしょうか?
このような状態を続けていると、高尿酸血症は悪化し、痛風発作を起こす可能性が高まります。
さらに、動脈硬化や腎機能障害といった合併症を招くおそれもあります。
最後に
高尿酸血症には、さまざまな合併症があり、特に高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病と密接に関連しています。
これらの合併症は、一度発症すると元の健康状態に戻るのが難しい場合がほとんどです。
そのため、少しずつ生活習慣を改善し、適切な治療を継続することが大切です。
長く健康で充実した人生を楽しむためには、高尿酸血症と上手に付き合い、日々の生活を見直していきましょう。