高血圧症
私が考える高血圧治療の重要性
私は画像診断を専門とする医師で、放射線科の分野において専門医の資格を持っています。この分野では、特にカテーテル治療技術に関心を持っています。実際の医療現場で患者さんと接する中で、私は動脈硬化や静脈疾患の治療に深い関心を持つようになりました。高血圧は、動脈硬化を引き起こす大きな原因となります。動脈硬化が進行すると、脳卒中、心筋梗塞、下肢の壊疽、大動脈解離、大動脈瘤破裂といっった生命に関わる深刻な合併症を引き起こす可能性があります。動脈硬化を予防するためには、高血圧の適切に管理することが不可欠です。これまで治療してきた経験から、私は患者さんのリスクと管理の重要性を伝え、健康寿命を伸ばすために積極的に治療に取り組んでいます。
高血圧とは?
血圧は、心臓から送り出された血液が血管を通る際に、血管にかかる圧力のことを指します。血圧計があれば、家庭で高血圧の有無を判断することができます。
家庭血圧では、収縮期血圧135mmHg以上あるいは拡張期血圧85mmHg以上
診察室血圧では、収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上
で「高血圧」と診断されます。詳しい分類は以下の表を参考にしてください。
正しい家庭血圧の測定法(※)
1. 測定する位置
上腕部(上腕カフ血圧計による)。心臓の高さに近い上腕部での測定値が、最も安定しています。
2. 測定・記録する事項 : 血圧手帳やスマートホンなどに記録条件
収縮期血圧/拡張期血圧 : mmHg (154/86mmhg など)
心拍数 : 1分間あたりの心拍数 (75回/分など)
3.測定時の条件
朝の測定時:起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬前、座った姿勢で1〜2分間安静にした後に測定する
晩の測定時:就床前(飲酒や入浴の後)、座った姿勢で1〜2分間安静にした後に測定する
歩いたり、飲食したりすると血圧は上昇します。血圧測定時には椅子などに腰掛け、体の力を抜いて1〜2分間安静にしてから測定します。
4. 測定回数
朝晩各1回以上。医師の指示によっては複数回測定し、平均値を記録することもあります。
高血圧は、心臓病や脳卒中、腎臓病などの重篤な病気のリスクが高まるため、適切な食事療法や運動、薬物療法などの治療が必要です。一方、血圧が低すぎる場合には、めまい、失神、頭痛、意識障害、臓器不全などの症状がでることもあります。このため、血圧はその人にとってちょうど良い血圧であることが大事です。
高血圧症を放っておくと?
高血圧を放っておくとどうなるのか、症状やリスクについて説明します。
血圧が高くなると、頭痛やめまい、肩こりなどの症状が現れることがありますが、多くの人は無自覚・無症状のまま進行します。
受診する方のほとんどは、指摘されるまで高血圧に気づかないことが一般的です。
高血圧が長期間続くと、血管壁に強い負担がかかり、動脈硬化が進行します。動脈硬化は、さまざまな太さの動脈に影響を与え、様々な血管合併症を引き起こす可能性があります。
細い動脈(1mm以下)
動脈硬化が進行し、血管壁の柔軟性が失われると、血管が破れたり閉塞したりすることがあります。これが原因で脳出血や脳梗塞、腎硬化症(腎臓が硬くなり機能低下する)などが発症することがあります。これを細動脈硬化と言います。
中程度の太さの動脈(3〜8mm)
動脈硬化により、血管壁内に悪玉コレステロールがたまり、変性が起こります。これが動脈の内腔を狭め、心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。これらは粥状動脈硬化症と言います。
大動脈(20-30mm)
大動脈壁のコラーゲンやエラスチンなどの線維が劣化し、血管壁が脆くなります。これらによって起こるのが、大動脈解離や大動脈瘤などです。
放っておくと、高血圧はこれらの血管障害を引き起こす可能性があるため、早期発見と治療が重要です。定期的な健康診断を受け、高血圧が指摘された場合は、速やかに医師の指導を受けましょう。
血圧が上昇する原因は何ですか?
高血圧は動脈硬化の原因となり、動脈硬化も高血圧の原因になります。また、血圧は年齢と共に自然に上昇していくことが一般的ですが、個人差があります。日本人は欧米人と比較し、塩分摂取によって血圧が上がりやすい人が多い民族です。アクティブな人も血圧が高くなりがちです。また、高血圧は遺伝することもあります。
また、肥満があると、内臓脂肪の大型化によって、血圧上昇因子が増加し、高血圧になります。喫煙によるニコチン、一酸化炭素、その他の揮発性物質は血管を収縮し、動脈硬化吐血圧上昇を招きます。
飲酒(アルコール摂取)は、アルコール、アルコール分解産物は、血管拡張作用があり、、一時的に血圧を下げます。 しかし、毎日飲酒をする人は次第に高血圧になりやすいとされます。習慣的な飲酒が原因で高血圧症になった人は、禁酒によって血圧が下がることが知られています。
運動は筋肉内の血流を増やし、血管の末梢抵抗を下げます。また、自律神経の機能を整えることで血圧を下げる効果があります。さらに、ナトリウムの排泄を促し、血圧を下げるとされています。逆に、運動不足が続くと血圧は上昇しがちです。
二次性高血圧症について
一般的に血圧は年齢とともに上昇します。さらに体質や生活習慣などの要因が加わることで高血圧症を発症します。高血圧症の原因となるものが様々あって、要因をひとつに特定できないものを「本態性高血圧」といいます。
それとは異なり、特定の病気・病態が原因となって発症する高血圧を「二次性高血圧」といいます。
二次性高血圧にはホルモンの異常や血管の異常などが原因です。本態性高血圧と二次性高血圧は治療方針が異なることから、検査を行って、どちらであるかを判断する必要があります。一般に二次性高血圧は全高血圧症の5〜10%といわれています。
高血圧症の治療を始めるタイミング
受診時の血圧が180mmhg以上で何年も前から高血圧を自覚している人。血圧上昇による頭痛やめまいなどの症状のある人には、早めに降圧剤を開始します。
それ以外の、「最近高血圧に気づいた人」、あるいは、「高血圧症がありそうな方」には、まずは、家庭での血圧を2週間程度測定・記録してもらいます。家庭血圧の測定方法は、既に述べたとおりです。※正しい家庭血圧の測定法
家庭血圧測定で、高血圧が判明した場合は、採血で二次性高血圧の有無と日常的な塩分摂取量を確認します。その結果を確認しつつ、生活習慣の改善を図ります。
減塩、減量、禁煙、節酒、睡眠、運動習慣など可能なものから生活習慣を見直してもらいますが、遺伝などの背景因子や血管疾患のリスクのある方では、降圧剤の早期導入をお薦めしています。
まれですが、ご高齢の方で「長年高血圧があったが放置していた」という方では、降圧剤の開始することで、ふらつきやめまい、立ちくらみなど、調子を崩す場合もあるので、少量の降圧剤から開始した方が無難です。
降圧目標とは?
日本人の疫学的な調査研究では、収縮期血圧が120mmHg未満、拡張期血圧が80mmHg未満の人達が脳心血管病での死亡率が最も低いことがわかっています。さらに血圧が高くなればなるほど、脳卒中や心臓病などを発症しやすくなります。
できるだけ高血圧の状態を回避し、正常血圧に近づけますが、下げすぎても立ちくらみやめまい、ふらつきが起きることがあるので、人それぞれの降圧目標が必要です。
一般には、75歳未満の成人、軽度の脳動脈硬化、狭心症や心筋梗塞、軽度の腎硬化、糖尿病、血液サラサラ系薬物服用中の人の降圧目標は、家庭血圧で125/75mmHg以下、診察室血圧で130/80mmHg以下を目指します。
75歳以上の高齢者や、脳や腎臓の動脈などで動脈硬化が進行している人の場合、降圧目標は緩めに設定されます。一般的には家庭血圧で135/85mmHg以下、診察室血圧で140/90mmHg以下を目指すことが推奨されますが、下げすぎに注意する必要があります。
ただし、血圧は常に変動します。測定時や季節によっても異なるので、適切な血圧状態の判断は難しいことがあります。
降圧剤の選択について
高血圧症の治療は第一に血圧を下げることが優先されます。「どの降圧剤を使うか?」よりも「どれくらい血圧を下げるか?」が重要です。以下は、日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインからのフローチャートです。
基本的に少量単剤から開始し、目標とする降圧効果が得られるまで、ひとつずつ、増やしてくのが原則です。
降圧剤の基本となるクスリは「Ca拮抗剤」、「ARB、ACE阻害薬」、「サイアザイド系利尿薬」の3剤です。
この中から副作用を確認しながら、増量、併用、変更 していきます。
降圧剤ごとに、得意分野がありますので、それぞれの人に合わせて使い分けることもあります。
Ca拮抗剤が万能な感じもありますが、時々副作用を認めることがあります。ARB、ACE阻害薬、利尿剤なども降圧効果と副作用の状況を考えて投与していきます。
最近では「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(商品名;セララ、ミネブロ)」、「サクビトールバルサルタン:エンレスト」といった、新規の降圧剤も登場しています。
最後に
高血圧症は日本人の慢性疾患の中で最も一般的であり、治療を受けている患者さんもかなりいます。また、市場に出回っている薬も多種、多様となっています。
治療薬の選択肢が増えたことにより、高血圧症の治療はそれぞれの患者さんに適した方法で調整することが求められる時代になりました。一人一人に最適な薬を選択するには患者さんの病状を観察しながら、副作用も念頭に置いて、薬物を選択することが求められます。この過程では、定期的な診察と医師の豊富な知識と経験による試行錯誤が不可欠です。
大事なことは、治療を中断しないことと、無計画な治療にならないようにすることです。診察を通じて患者さんの状況を確認しつつ、長期的な結果を出せる高血圧症治療になるように、日頃から心掛けていきたいと考えています。