睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠は健康の維持のため、また体を正常に機能させるために必要なものです。人間の睡眠にはリズムがあります。正常な睡眠では、浅いノンレム睡眠から始まり、深いノンレム睡眠に移行する。眠り始めの最初は深い睡眠が多く現れます。レム睡眠は睡眠開始後80~100分後に出現し、ノンレム睡眠と約90分周期で交互に繰り返されます。この生理的なパターンが崩れてしまうと、良質な睡眠がとれなくなり日中の眠気につながることがあります。眠っているときも自然に呼吸をしていると考えられていましたが、睡眠時に呼吸が数十秒も停止する睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndromes : SAS)という病態があることがわかってきました。
睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気?
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。一晩の睡眠中に10秒以上の無呼吸や呼吸数の減少がレム睡眠期だけではなくノンレム睡眠期にも一晩に30回以上、または1時間当たり5回以上の無呼吸が認められる場合に睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
1時間当たり15回以上呼吸が止まる状態の有病率は50才代女性で10%弱、男性で10~20%程度とされています。比較的多くみられる病気と考えられます。
睡眠時無呼吸症候群の方に見られる自覚症状として、以下のようなものがあります。
- 激しいいびきをかいている
- 呼吸が止まっているのと家族に指摘される
- 何度も夜中に目が覚める
- 日中に眠気が出る
- 集中力が持続しない
- 熟眠感がない
- 起床時に頭痛がある、頭がすっきりしない
このような症状が見られた場合には、睡眠時無呼吸症候群を疑い検査を受けてみましょう。
また、後に睡眠時無呼吸症候群で起こる眠気についてのチェックリストもあります。このチェックリストや自覚症状が当てはまる場合には眠気が強い可能性があります。早めに相談をしましょう。
これまでにも何度か睡眠時無呼吸症候群の方が運転中に眠ってしまい、大きな事故につながってしまったという痛ましいニュースがありました。大きな事故となる前に、睡眠状況を整えることを考えましょう。また、集中力の低下など仕事にも影響が出ますので運転を仕事としていない方も今一度症状がないか考える必要があります。
睡眠時無呼吸症候群の原因は?
普通、睡眠に移行する際には喉の筋肉の緊張がゆるむため舌根部が落ちやすく、正常な人でも気道が狭くなります。肥満の人では、のどの周囲に脂肪がつくためさらに気道がせまくなり、睡眠時無呼吸症候群の原因となります。そのほかにも、扁桃の腫大や下顎が小さい方も構造的に気道が狭くなりやすく原因となり得ます。また、睡眠薬の内服、飲酒や加齢は筋肉のゆるみが起こり、舌根部が落ちやすくなるため睡眠時無呼吸症候群の悪化因子として挙げられています。
睡眠時無呼吸症候群が危険なのは眠気だけじゃない!
睡眠時無呼吸症候群は、高血圧の原因の一つになっており、睡眠時無呼吸症候群を治療することで改善の効果が見られると報告されています。また、呼吸障害により低酸素と高二酸化炭素を繰りかえすことや、頻回な途中覚醒により交感神経活性亢進をきたすこと、酸化ストレスなどにより血管内皮機能障害・動脈硬化の進展をきたし狭心症や心筋梗塞などの心血管障害が起こりやすいと言われています。良質な睡眠が得られないことで様々な疾患の原因となり得るため、これらの疾患の進行を予防するためにも早めの治療を検討しましょう。
睡眠時無呼吸症候群の可能性はある?
ESSテスト(エプワース眠気尺度)でチェックしてみましょう。
下記のそれぞれの状況で
0:決して眠くならない、1:稀に眠くなる、2:1と3の中間、3:眠くなることが多い
いずれかを選び合計してください。
- 座って読書をしているとき
- テレビを見ているとき
- 公の場所で座って何もしない時
- 1時間続けて車に乗せてもらっているとき
- 状況が許せば、午後横になって休息するとき
- 座って誰かと話をしているとき
- 昼食後(お酒を飲まずに)静かに座っているとき
- 車を運転中、交通渋滞で2~3分停止しているとき
合計点数で11点以上であれば眠気の自覚症状があると言われています。
当てはまる方は受診し、一度検査を受けてみましょう。
睡眠時無呼吸症候群の検査はどんなものがある?
睡眠時無呼吸症候群は健康診断や血液検査では診断できません。診断をするための検査として、簡易検査(アプノモニター)とよりさらに詳しく調べる睡眠ポリグラフ検査(PSG)があります。
どちらの検査も、寝ているときの体の状態を検査します。
簡易検査では指先のパルスオキシメーターで酸素濃度や脈を測定、同時に鼻の息やいびきの計測、胸に機械を付けて体位や胸郭の動きをはかります。この携帯型睡眠検査を自宅で行うこともできます。これは、医療保険適応の検査であり、この検査で重症な方(1時間に40回以上呼吸が止まっている場合)では、鼻マスクによる持続陽圧呼吸療法(CPAP療法)の適応の診断がつきます。
精密検査の睡眠ポリグラフ検査は1泊から2泊の検査入院で行うことが多いです。簡易検査の項目に加えて、脳波、心臓、筋肉や目の動きも同時に測定します。呼吸状態を精密に検査することができ、詳しく睡眠障害の診断ができます。この精密検査で無呼吸指数AHI(睡眠1時間あたりに10秒以上の無呼吸や低呼吸が何回起こったかを示したもの)が5回以上で睡眠時無呼吸症候群と診断されます。20回以上でCPAP療法の適応となります。
これらの検査で睡眠時無呼吸症候群の診断がついた場合、自覚症状と合わせて今後の治療を考えていきます。
睡眠時無呼吸症候群の治療
軽い場合には、原因により治療を考えていきます。扁桃腺腫大など見られる場合には耳鼻科での治療やマウスピースなどの口腔内装具の適応も検討します。また、肥満がある場合には減量をすることが効果的であることもあります。筋肉がゆるむアルコールや睡眠薬をできるだけ控えることも治療につながります。また、仰臥位で舌根部が落ち込みやすく閉塞をきたしやすくなるため、側臥位で寝ることが症状の改善につながることもあります。
重症の場合には、経鼻的気道持続陽圧療法(CPAP療法)を行います。睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療方法でほかの治療法と比較し、効果的であると言われています。器械からホースを通じて鼻マスクに空気を送り、その圧力で気道を確保します。
これにより無呼吸の頻度が減り、低酸素状態が起こらなくなりしっかりとした睡眠をとることができるようになります。最初は、マスクに慣れず無意識に外してしまう方もいますが2~3か月で徐々に慣れていきます。この治療は、しっかり器械を使用して寝ないと効果が出ません。治療をしっかり継続していきましょう。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群は50才代以上で比較的頻度が多い疾患です。ESSテストなどでチェックをしてみて、日中の眠気がある方、また家族からいびきや呼吸が止まっていることを指摘された場合には、早めに検査を受けてみましょう。睡眠がしっかり得られていないことで、日中の眠気につながり大きな事故や仕事の効率が悪くなる可能性があること、また高血圧や心血管疾患の原因にもなりえるため、早めに検査を受け、必要であればしっかりと治療につなげていくことが大切です。自宅でできる簡易検査もあるため、少しでも気になる方は相談をしてみてください。