骨粗鬆症 内科医と治療する骨粗鬆症
骨粗鬆症の診療を内科で行うわけ
「元気な足で最後まで歩き通す」
これは、のだ眼科・血管内科クリニックの内科チームが掲げている目標です。
骨粗鬆症のため骨折し、歩行困難や寝たきりになるのは決して少なくありません。海外では、骨折による寝たきりなどの生命への脅威を「bone attack:(日本語では“骨卒中”)」と呼称し、リハビリ科領域において注意喚起されています。
国民健康基盤調査では、女性が要介護状態になる原因の第1位は認知症(20.5%)で、第2位が高齢による衰弱(15.4%)、第3位が骨折・転倒(15.2%)、第4位が関節疾患(12.8%)、第5位が脳卒中(11.2%)でした。
第3位の転倒による骨折のほとんど、第4位の関節疾患の一部はその背景に骨粗鬆症があります。骨折は、尻餅をついた後の腰痛があるので、レントゲンを撮影したら背骨に圧迫骨折を起こしていた、転倒して手をついたら手首を折った、雪道で滑って転んだら、大腿骨を骨折したということは身近でよく聞く話です。これらの骨折は骨が脆くなると意外に簡単におこります。
骨粗鬆症はありふれた疾患です。骨粗鬆症に関する学会や調査では「日本の骨粗鬆症患者数は推定1,100万人」であること、そして、「50歳の女性が生涯に椎体骨折を起こす確率は推計で37%である」と報告しています。
女性においては、要介護状態を避けるためには、「骨のケアをすること」と「脳のケアをすること」とはほぼ同等です。
骨粗鬆症は骨折を起こす前に診断し、予防することが大事です。
動脈硬化による脳卒中、心臓発作などを予防するためには血圧や脂質、血糖を管理して予防することが大事ですが、予防は内科の得意分野です。骨折を起こす前に、骨粗鬆症を管理し、骨卒中を予防しませんか?
骨粗鬆症とは
骨粗鬆症は骨の量が減って脆くなり、骨折しやすくなる病気です。骨粗鬆症では、年をとるのに伴って骨折リスクが高まっていきます。特に、女性は50歳を過ぎる頃から、女性ホルモンが低下するのに伴って骨密度が低下していきます。さらに年齢が進むと筋力が低下したり、身体バランスが悪くなったりします。そのために転倒して、骨折するリスクが増大します。
骨粗鬆症で骨折しやすい場所
骨粗鬆症では背骨、股関節から大腿骨、手首、上腕を骨折を起こしやすくなります。背骨は圧迫骨折となり、背中や腰が曲がる原因となります。また股関節~大腿骨が骨折すると歩行できなくなります。高齢者になってからの骨折は、健康寿命に大きく影響し、車椅子や寝たきりの原因になります。
骨粗鬆症の原因(スクラップ&ビルドの異常)
骨は人体で最も強い構造物ですが、1年間で約20%が入れ替わっています。骨の入れ替わりは、破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞による骨形成によって進みます。
骨粗鬆症は女性に多い病気ですが、その原因は加齢と女性ホルモンの減少です。加齢によって腸管からのカルシウム吸収が減ったり、ビタミンDの働きが悪くなったりします。また女性ホルモン(エストロゲン)は骨吸収を抑える働きがあるのですが、これが減少すると骨吸収(骨からカルシウムが溶け出すこと)が進行して骨粗鬆症になります。
骨粗鬆症のチェックポイント
骨粗鬆症の症状は以下のようなものです。
- 以前より身長が低くなった
- 背中や腰が曲がってきた
- 背中や腰に痛みを感じる
このうちの一つでも当てはまるものがあれば、骨粗鬆症の可能性があります。
骨粗鬆症の検査
問診&FRAX
骨粗鬆症による自分の骨折危険度ですが、無料で調べることができます。世界保健機構が開発した骨折リスク評価法ツール(FRAX)にデータを入力すれば、一人一人の患者さんごとに、今後10年以内の骨粗鬆症による骨折確率、及び今後10年以内の股関節の骨折確率を判定してくれます。「年齢、性別、体重、身長、骨折歴、両親の大腿骨の骨折歴、現在の喫煙、ステロイド内服の有無、関節リウマチ、飲酒歴」などを入力してみましょう。より正確に判定するためには骨密度を入力する必要があります。
インターネットを利用していない方、或いはFRAXのホームページにアクセスしてもやり方がわからない方は当院にて計算いたします。算出された確率が15%以上の場合は骨粗鬆症の治療を開始したほうが良いと言われています。
X線検査
背骨のX線写真を撮影し骨折や変形の状態を確認します。
骨密度検査
骨密度検査は骨の強さを判定するための指標です。骨の中にカルシウムなどのミネラルがどれくらいあるかを測定します。DEXA法、超音波法、MD(エムディ)法などがあります。このなかでは、背骨(腰椎)と股関節〜大腿骨(大腿骨頚部)のDEXA法が最も信頼性が高く、治療の評価に用いることができます。当院では現行で最も信頼性が高いとされているHologic社のDEXAを導入しています。
採血(骨代謝マーカーなど)
採血検査では、カルシウム、リン、副甲状腺ホルモン、骨代謝の指標(骨代謝マーカー)を測定します。これらの測定により骨粗鬆症の原因や骨の新陳代謝の状態(骨のリモデリングといいます)を確認することが出来ます。破骨細胞による骨吸収の状態を見る代表的なマーカーはTRACP-5b、また骨芽細胞による骨形成のマーカーはP1NPです。
骨代謝マーカーは骨粗鬆症の診断だけでなく、治療の選択及び治療状況の確認のためには重要な検査です。
治療薬のはなし
骨粗鬆症の治療薬としてはいろいろな選択肢があります。このうち重要なお薬について述べていきます。
ビタミンD製剤
ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を促進し、血中カルシウム濃度を維持して骨のカルシウムを正常に保ちます。最近開発された「活性型ビタミンD3」は骨吸収の抑制作用もあり、圧迫骨折の予防効果が高くなっています。副作用は血中Ca濃度の上昇や尿路結石で、定期的な血中カルシウム濃度の測定が必要です。
選択的エストロゲン受容体調整薬(SERM:ラロキシフェン、バゼドキシフェン)
エストロゲン(女性ホルモン)は骨粗鬆症に効果的ですが、乳房や子宮にも作用するためがん年齢の女性には使いづらい薬です。
選択的エストロゲン受容体調整薬は、骨や脂質の代謝にだけ作用し、乳房や子宮には影響しません。骨が吸収され脆くなるのを抑えて骨密度の上昇し椎体骨折を予防します。
ただし、ビスホスホネート製剤(後述)と比較すると骨密度の上昇は低いのですが、骨折予防効果は高く、更に骨質の改善作用や乳癌リスクの低下、脂質代謝(コレステロールなど)の改善効果もあるとされています。
ただし、血管内科的には、血栓ができやすくなることに注意が必要な薬でもあります。静脈血栓の治療歴のある方、下肢静脈瘤のある方には使いづらい薬です。
ビスホスホネート
骨粗鬆症治療の中で、最もよく使われている薬剤です。ビスホスホネートは破骨細胞(骨を壊す細胞)のアポトーシス(自殺プログラム)を引き起こし、破骨細胞を弱らせることで骨破壊を抑制、その結果骨密度を増やします。
ビスホスホネートには内服薬と注射剤があります。
内服薬の場合は、食道炎や胃腸障害を予防するため起床時に服用し、コップ1杯(180ml)以上の水で服用してもらいます。内服後に30分以上は横にならないことにも注意が必要です。食道に病気のある方は服用できません。
副作用は胃腸障害(食道炎)と顎骨壊死です。顎骨壊死は重篤な副作用で経口ビスホスホネート服用者10万人あたり0.85人の発生確率です。確率が低いとはいえ顎の骨が壊死して溶ける病気で難治性です。ビスホスホネートを開始するときに歯科治療の有無や、今後抜歯などの予定が無いかを確認します。インプラントなどはきな歯科治療の際には、休薬が必要になることもあります。顎骨壊死は口腔内の衛生状態が悪いと発症しやすいといわれているので、定期的に歯科でチェックを受けるようにすると良いでしょう。
注射薬では、内服薬服用上の制限はなく、定期的に注射するだけです。直接骨に届くため薬効が確実です。毎月通院できる方であれば、良い選択肢だと思います。(注射薬を3年間行うと、経口薬を5年分服用したのと同じ効果があるといわれています)副作用は初期の骨痛であり、まれに痛み止めが必要なこともありますが、頻度は少ないようです。
その他、長期投与による「非定型大腿骨骨折」の報告もありますが、頻度的には少ない疾患です。
デノスマブ
新しい注射薬で破骨細胞の働きを抑えることで、骨密度を増します。作用の違いは破骨細胞を自殺させるのではなく、幼弱な破骨細胞が成熟した破骨細胞になるのを抑えることで骨破壊を抑制します。半年に1回の皮下注射であり、飲み忘れの心配はありません。デノスマブ投与後は低カルシウム状態を予防するため、カルシウムとビタミンDの合剤(デノタス®)を1日1回2錠服用します。
デノスマブを中止すると、破骨細胞が一気に成熟して活動を始めるのではないかという懸念から骨折が増加する可能性が指摘されています。デノスマブには投薬期間の制限はなく、長期間使用することも可能ですが、中止基準も特に定められていません。中止後に骨代謝マーカーが元に戻るため、中止後は比較的速やかに、ビスホスホネートなどの他の骨吸収抑制剤の投与を考慮すべきです。
デノスマブも顎骨壊死の副作用が知られています。歯科治療においては投薬期間の調整が必要です。長期投与による非定型大腿骨骨折の問題については検討段階です。
テリパラチド、アパロパラチド
テリパラチド、アパロパラチドは副甲状腺ホルモンの一部を合成した製剤です。副甲状腺ホルモンは骨芽細胞を活性化させる作用があります。これまでの薬物は骨破壊を抑制するお薬だけでしたが、これらの薬は骨形成促進により骨密度を増します。特に最近承認されたアパロパラチドには骨折予防効果として大きな期待が寄せられています。
自己注射で毎日注射するタイプ、自己注射で週2回注射するタイプがあります。骨粗鬆症治療薬としては強力な薬で、骨粗鬆症治療ガイドラインの中でも評価が高く、骨折のリスクの高い患者さんには特にお勧めです。
副作用は吐き気。血圧低下によるふらつき、めまい、またカルシウムの上昇があります。これらの注射薬は医療保険上で、投与できる機会が限られた薬ですので、できれば脱落しないように治療を完遂させたいものです。
ロモスマブ
ロモソズマブは近年承認された強力な骨粗鬆症です。毎月1回につき2本を皮下注射し、12か月で治療は終了します。ロモソズマブは骨と作る骨芽細胞の働きを強くし、骨を破壊する破骨細胞の働きを抑えます。ロモソズマブの登場によって骨粗鬆症の治療薬は新たな段階となっています。また月1回の皮下注射であるため継続性は高いです。さらに、DEXAでは骨密度の増加作用は他の治療薬よりも強力な印象があります。
副作用としては、血管合併症の報告があります。心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症の既往がある場合や動脈硬化のリスクが高い方は使用を避けたほうが無難だと思います。
骨粗鬆症治療薬のまとめ(教科書と私見から)
年齢とDEXAによる骨密度測定、骨代謝マーカーなどで評価を行ってから治療薬を選択します。
骨密度はやや低いが、筋力やバランスがよくて転倒リスクが少ない方では、活性型ビタミンD3や選択的エストロゲン受容体調整薬から開始します。特に活性型ビタミンD3は筋力増強作用、転倒防止作用があることから、どの段階でも使いやすいです。選択的エストロゲン受容体調整薬は、乳がん抑制、脂質改善、骨質改善などの作用がある反面、血栓症のリスクがあるので、できれば70歳までの女性に限定したいです。
骨密度が低く、骨折リスクが高い、また糖尿病やステロイド性骨粗鬆症では、ビスホスホネートの注射を開始します。
既存骨折がある、あるいは非常に骨密度が低くなっている(若い人の50%以下)方の場合は、テリパラチド、アパロパラチドやロモソズマブを選択し、一定期間投与した後にデノスマブに切り替えます。
デノスマブはかなり強力な治療薬ですが、専門家の先生によると、「最初からは用いないほうがよく、他の治療の引き継ぎに利用したほうが良い」とのことでした。
これらの、治療の有効性判定は当院ではDEXAによる骨密度測定で行っています。また、適宜、カルシウム、リンおよび骨代謝マーカーなどを測定します。
最後に
骨粗鬆症はほとんど症状のない病気ですが、いったん進行させてしまうと厄介な病気です。背中が曲がってしまうと食事も取りづらくなり、歩行も辛く、段々と弱っていきます。農耕民族で腰をかがめることの多かった日本人にとっては、「年をとること」=「腰が曲がること」でした。しかし、現在は治療の進歩によって骨粗鬆症を予防できます。医療保険で治療ができるのです。しっかりと運動して体を鍛えれば、人生の最期まで背筋をピンと張ったままで過ごすことも可能です。私は、「元気な足で最後まで歩き通す」の手伝いをしていきたいと思います。健診で骨密度が低めと言われた方、ご自身の骨密度に不安がある方がいらっしゃいましたら、是非ご来院いただき、ご相談いただけたらと思います。