HbA1cについて
HbA1c(ヘモグロビンA1c)という単語を糖尿病の診断やコントロールの話で、よく耳にすると思います。血液中の血糖値は、測定するタイミングで変化してしまうため一回の測定ではコントロールの判断ができません。そのため、過去1,2か月の血糖値の平均を反映する値であるHbA1cをよく用います。
HbA1cとは?
HbA1cとは、全身の細胞に酸素を送る赤血球内のタンパク質の一 種 であるヘモグロビンにブドウ糖が非酵素的に結合したものです。ブドウ糖は自由に赤血球膜を通過できることと、赤血球内にはヘモグロビンが多量に存在することより、ヘモグロビンの糖化は血液中のブドウ糖濃度に依存します。HbA1cの血中濃度は過去1~2か月間の血糖コントロール状態を反映すると考えられています。
近年健康診断で、糖尿病、脂質代謝異常などを含む生活習慣病の早期診断と予防のため、HbA1cを測定していることが多いです。血糖値やHbA1cが高値、尿糖が陽性である場合は糖尿病である可能性もあります。早めに病院受診をしましょう。
HbA1cの基準値とは?
HbA1cの基準値は、耐糖能正常者で4.6~6.2%です。
HbA1cが6.5%以上の場合には糖尿病型と判定します。糖尿病と診断するためには、同日に血糖値が空腹時血糖で126mg/d1L以上、もしくは随時血糖で200mg/dLを同時に満たすか、別の日に行ったHbA1cが糖尿病型を満たした場合に糖尿病と診断されます。これは、高血糖が慢性時持続していることが証明されなければならないためです。
また、空腹時血糖110mg/mL未満、75g経口ブドウ糖負荷試験での2時間値で血糖値140mg/dL未満を正常型といいます。この正常型にも糖尿病型にも当てはまらないものを境界型といいますが、将来的に糖尿病型に移行する可能性もあり、食事など気を付け健康診断などで悪化がないかを常に気を付ける必要があります。
また、空腹時血糖値が100~109mg/dLは正常域ではありますが「正常高値」とし、この集団は将来的な糖尿病の発症リスクが高いと考えられ、精査のため75g経口ブドウ糖負荷試験をすることが勧められます
2014年4月1日をもって、HbA1cの表記が以前日本で使用していたJapan Diabetes Society(JDS)値を使用せず、国際標準値であるNational Glycohemoglobin Standardization Program(NGSP)値のみを用いることになりました。JDS値からNGSP値を、あるいはNGSP値からJDS値を算出する際には以下の換算式を用います。
NGSP値(%)=JDS値(%)×1.02+0.25(%)
JDS値(%)=NGSP値(%)×0.980-0.245(%)
血糖コントロールの目標値としては以下のようになっています。
目標 | 血糖正常化を 目指す際の目標 |
合併症予防 のための目標 |
治療強化が 困難な際の目標 |
---|---|---|---|
HbA1c | 6.0%未満 | 7.0%未満 | 8.0%未満 |
合併症の予防のため、低血糖を起こさず、HbA1c7.0%未満を目指します。
長期にわたって血糖コントロールが悪い場合には、急激な血糖値の低下により、網膜症や神経障害などが悪化する可能性が考えられます。このため、合併症に配慮しながらの緩やかな血糖コントロールの正常化が必要です。
また、腎障害、高齢者、重症の虚血性心疾患の合併例では、低血糖を引き起こすことで予後が悪化すると報告されており、低血糖を防ぎ、薬剤の種類や量などに注意することが重要です。
65才以上の高齢者では、年齢、生活自立度、認知症の有無や合併症などを総合的に判断したうえで血糖コントロールを行います。
高齢者の血糖コントロールの目標値が下のようになっています。
患者の特徴 | 認知症なし 生活が自立 |
軽度認知症あり 介護がやや必要 |
中等度以上の 認知症 介護が必要 |
---|---|---|---|
低血糖が起こりやすい薬の使用なし | 7.0%未満 | 7.0%未満 | 8.0%未満 |
低血糖が起こりやすい薬を使用している | 75才未満7.5%未満 75才以上8.0%未満 |
8.0%未満 | 8.5%未満 |
高齢者では低血糖に気付きにくく、自覚がなく低血糖になることもあります。このため、低血糖のリスクを減らす目的で緩やかな血糖コントロールを行います。
HbA1cは万能ではありません。赤血球寿命と関連があるため、出血や鉄欠乏性貧血、血液疾患、肝硬変や透析患者さんなどでは正確な評価ができない時があります。血糖値との間に乖離があるときはほかの指標で血糖コントロールを評価する必要があります。
HbA1cが9~10%以上と高値が持続する場合は糖尿病の教育入院などを考慮し、血糖コントロールの改善を図りましょう。
急激に血糖値が上昇し、尿中ケトン体陽性、脱水や意識がもうろうとするような状態の場合には糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態などの合併が疑われ、緊急入院を考慮する必要があります。
また、随時血糖で250~300mg/dL以上、HbA1c10%以上と急激な増悪、口喝、多飲、多尿、体重減少などの高血糖症状が出現した場合にも入院を考慮します。いずれも患者様の状態、治療内容などから入院基準や危険値は一概に言えず、総合的に判断する必要がありますのでまずは受診の上、相談しましょう。
HbA1cを下げるには
HbA1cを下げるには、糖尿病の血糖コントロールを改善するための治療方法についてお話ししていきます。 糖尿病の合併症(網膜症・腎症・神経障害)の進行を防ぐためにも、そのほかの生活習慣病の悪化を防ぎ、動脈硬化を予防するためにも食事療法・運動療法を行うことが基本です。
治療開始時の目安とするエネルギー摂取量の算出方法は以下のようになっています。
エネルギー摂取量=目標体重×エネルギー係数
目標体重とは65才未満であれば(身長(m))2×22
エネルギー係数とは日常の運動量により決めます。
軽い労作(ほぼ座位)であれば25~30kcal/kg、普通の労作(家事など)で30~35kcal/kg、重い労作(力仕事)で35~kcal/kgとなります。
ご自身の必要なエネルギー摂取量を把握し、バランスよく食事を摂取することが大切です。
合併症の有無などにより患者様それぞれ変わることもあります。受診の上主治医に相談して確認しましょう。
また、なかなか血糖コントロールがうまくいかない場合には原因について考えることも重要です。例えば、ジュースを良く飲む、間食が多い、寝る前に飲酒量が多いなど様々な原因があることも少なくありません。ご自身の生活習慣を今一度よく見直していくことも大切です。
運動療法では、歩行、ジョギング、水泳などの有酸素運動をややきつい程度の強度で週に150分かそれ以上、週に3回以上行うのが良いとされている。歩行であれば、一回20~30分、一日2回、一日の運動量として一万歩程度が勧められています。しかし、血糖コントロールが極端に悪い場合や網膜症が進行している場合、腎不全、虚血性心疾患や心不全の合併などがある場合には勧められないこともあり主治医に確認の上運動療法を行いましょう。運動習慣をつけ持続していくことが大切です。
食事療法、運動療法がおこなわれていてもコントロールが不十分である場合には薬物療法を開始します。治療方法としては大きく分けて2種類。
経口薬と注射剤があります。多くの場合には経口の治療薬から開始することが多いです。経口薬は作用機序からインスリン分泌非促進系とインスリン分泌促進系に分けられます。
注射剤ではインスリン製剤とインスリン分泌促進系の薬剤であるGLP-1受容体作動薬があります。
それぞれ患者様の病態に合った薬剤を選択して目標血糖値を目指します。
経口治療薬をインスリン療法へ移行するのは次のような場合です。
- 経口血糖降下薬療法では、十分な血糖コントロールが得られない時。
- 肝・腎障害、経口血糖降下薬での副作用によりインスリンへ変更が必要な時
- 妊娠を前提にするとき
- 手術や感染症合併の時
主治医とよく相談し、今後の治療を継続していきましょう。
まとめ
糖尿病の治療法は患者様ごとに千差万別です。どの治療方法を選択しても、糖尿病による合併症を引き起こさないようにすることが最適といえます。それぞれの病態にあった最適の治療法を考え、目標とする血糖コントロールを達成できるようにしましょう。